3日目「孤独のススメ」 ~アメリカ南西部 3475 マイル ロードトリップ の記し~
昨晩は寝酒も手伝い22:00には眠りについた。そのまま朝まで眠れれば良かったが、時差ボケか夜中に目が覚める。
4:00頃また寝たかな。これは質の良い眠りだった。
で、いま10:50。2日ぶりの熟睡で頭はスッキリ。早起きして行くつもりだったチリカワ国立公園を2秒で諦め飛び起きた。今日の最優先事項がすでに黄色信号だからだ。
40秒で身支度を整え、隣のTEXACOでスピード給油。
ホワイトサンズ・ナショナルモニュメントのあるニューメキシコ州はもう12:00を過ぎている。
入園するだけなら時間的問題は無いが今回は事前予約のできない先着10組限定キャンプ泊が目的だ。
キャンプサイトまではトレイルヘッドから野営道具を担ぎ砂漠を1マイル以上歩かなければならないため、ビジターセンターの受付締め切り時刻は日没の1時間前となっている。今日は17:15の予定だ。この時刻より先に10組に達した場合はその時点で締め切られる。
ラスクルーセスで買い出しをして15:30頃ホワイトサンズのビジターセンターに着ければいいかなと考えていたが、頑張っても16:30だ。
今日も綱を渡るのか、でもこういうの嫌いじゃないな。
州境手前のレストエリアにて このあと何泊もキャンプするんだけどな
今回の相棒、2017 北米TOYOTA SIENNA 3.5L
さて、ふたたび川を越える。
I-10E CA → AZ → NM
アリゾナ州ウィルコックスからニューメキシコ州ラスクルーセスまでの190マイルは同じ風景が続く。
ハイウェイの路上には、相変わらずバーストタイヤと長いスリップマーク。
「20歳までに、僕はいくつ河を渡るだろうか」
リオグランデのことではないと思うが、川を越えると古いコピーが廻りだす。
上野裕史さんのYouTube「ライクーダー Across The Borderline」
秋山晶の短文とRy Cooder。憧れのニューメキシコだった。
バタバタして、思い描いていたニューメキシコ入りとはだいぶ違うが、これが案外自分の旅らしい。
理想と現実にはどうしたって隔たりがあって不完全だけれども、経験を足すことでその人なりの形になると思う。
出来上がった自分の形は本や専門家の言葉より、もしかしたら思い描いた理想よりも自分にとって価値がある。
ニューメキシコ州 第2の街 ラスクルーセス 標高1200m
リオグランデ川を越えラスクルーセスには15:00ごろ到着した。
十字架の街ラスクルーセス。響きがいい。
スーパーマーケットでローストチキン1羽とグリーンサラダ、見たこともないバーボンウイスキーを買った。
ロサンゼルスからここまで無事に届けてくれたエルパソへ向かう10Eastに感謝とお別れを。
ここからはUS70Eastに乗り換え純白の砂漠を目指す。
US70 US Border Patrol 検問所 パスポートと免許証の用意を
ホワイトサンズビジターセンターの少し手前、US70Eの国境警備局のl検問所でチェックを受ける。
パスポートを出しホワイトサンズに行くと言ったらそのまま通してくれた。
密入国のチェックではあるけれども、ホワイトサンズは米軍のミサイル実験場が隣接する関係か、このような検問所が設けられているのかもしれない。
広島、長崎に原子爆弾が投下される3週間前、人類初の核実験が行われたトリニティサイトも現在はホワイトサンズミサイル実験場の管轄だ。また、NASAのスペースハーバーもナショナルモニュメントのすぐ北にある。
これがアメリカという国。憧れと嫌悪のミックスされた、世界でいちばん関心のある国。影響も受けた国。
16:20ビジターセンターに到着。
事前にプリントアウトし、必要事項を書き込んでおいたプリミティブバックカントリーキャンプサイト申込書を携えカウンターへ。
安全のためソロキャンプを推奨していない公園側に対し、少しでも意気込みをアピールしておきたかった。
肝心のサイト状況は既に8サイトが埋まっている。残りは#3と#6。宿泊名簿によると他にソロ泊は1名いた。
アジア圏からは自分ひとり。世界中から集まった9組だけが今夜ここで過ごす訳だ。
トレイルヘッドからより遠いサイト3を選んだ。
アドビ様式のビジターセンター
国立公園ほかの年間パス パークの入場ゲートで購入できる
ビジターセンターからバックカントリーキャンプサイトのトレイルヘッドまで7マイルドライブする。
最初は見慣れた砂漠だが、少しずつ白い砂が現れ、気が付けばゲレンデへ向かう風景そのものになる。まるで雪国だ。
Dunes Dr, White Sands National Monument, NM
バックカントリーキャンプサイトのトレイルヘッド
ここはいわゆるキャンプ場ではない。水道もトイレも無い “Primitive Backcountry Campsites”なのだ。
「White Sands doesn't offer hotel accommodations or RV/car camping within the monument; however, we do offer primitive backcountry camping in the heart of the dunes.」
トレイルヘッドに車を停め、テント、寝袋、マット、チェア、テーブル、コッヘル、ストーブ、水3L、一眼レフカメラ、ローストチキン1羽ほかを担ぎ、陽の沈むピンクの砂丘をひとり歩く。
Canp Site はループトレイル上に配置されている
Stay ALIVE !!!
トレイルヘッドから自分のサイトまでは50~150mに1本の間隔で樹脂の目印が立っている。
高低差のある場所は間隔が狭く、見通しの良いところは間隔が広い。
キャンプサイトに辿り着くための情報はこれだけだ。目印を見落とし少し焦った。陽が落ちたら本気でヤバい。
イノチヅナ。風が吹くと簡単に見失うらしい
目印は倒れている場合もある 実際2本倒れていた トレースが無ければロストだ
勾配のある砂丘をいくつも越える
Site 3 : N32° 48.386 / W106° 16.497
日没のころ設営完了
テント設営は10分で完了。砂を3センチも掘ると適度に湿っていて意外にペグが利く。
陽が沈むと急に気温が下がった。石膏とは言えやはりここは砂漠だ。
10あるサイトはどれも数百メートルずつ離れている。それぞれが砂丘の窪地にあるので互いの気配を感じることもない。大きな音を出してはいけない規則もある。
完全な孤独のための仕掛けが幾重にも用意されている。
借りたジェットボイルでハインツスープを温める。このギアの湯沸かしスピードに驚く。どうなってんだコレ。
V8とファミリーサイズのグリーンサラダでビタミン補給、左右の鶏ももでタンパク質摂取。
濃いめの湯割りバーボンで暖をとる。月が沈む23:00までテントの中で一休み。
隠れる月と南のひとつ星とソロテント 21:30頃
フライシートをガサガサする音で目が覚めた。これにはビビった。
前室に置いていたローストチキンのパックがテントの外に。ジェットボイルも10m先に転がっている。
あれはビジターセンターで知ったコヨーテだな。チキンの欲しい彼はじっとこちらを睨んでいる。
覚悟を決め、大声を出しテントの外に出ていったら 闇に消えていってくれた。
時計は0:00を過ぎている。月は砂丘に落ち、辺りは暗く、気温はさらに下がった。
北十字が砂丘の西に刺さる。まるで倒れかけの墓標だ。
ランタンを消せば、白鳥の尻からカシオペヤ、カペラ、オリオンの東まで流れる淡い河が浮かんでくる。
平衡感覚が麻痺し、宙に浮いている様な錯覚。
独りでいる優越と後悔が同時にやってくる。泣けてくるので、もう寝ようか。
極上の孤独
北緯32度48分24秒、西経106度16分30秒、冬の大三角が目の前にある砂漠のテント場にて。
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