8日目「焚火 × グランドキャニオン」 ~アメリカ南西部 3475 マイル ロードトリップ の記し~
薄明るいテントの中にアラームが響く。日の出の1時間前だ。
あまり寒くなかったし、しっかり6時間ぐらい寝ただろうか。この旅にようやく身体が慣れてきたみたいだ。
これは本当に主観的なんだけど、この旅では時間帯の価値が違ってくる。
自分の中で高値が付くのは、日の出前40分間と、日の入り前10分間、日の入り後40分間。合わせて1日に1時間半ある。
単なる移動や食事にではなく、撮影や、その場に没入するために使いたい魔法のかかった時間だ。
ここは3度訪れているが、こんな色のモニュメントバレーは初めてだ。
6:30am あと30分もすれば陽が昇る
フライシートを開けて今朝初めて観る景色 朝から感動してしまう
7:30am 魔法が解け、撤収作業へ
さて本日の予定を確認しておこう。
モニュメントバレーを昼前に出発、レイクパウエルの観光ベースであるページ(Page)を経由しグランドキャニオンサウスリムへ。
最優先事項はマジックアワーのグランドキャニオン。距離は265マイルとそれ程でもないが、アンテロープキャニオンや買い出しなど、ページの滞在時間が読めないのが気がかりだ。
今回の旅は途中からT氏とレンタカーをシェアしている。
こちらのメリットは半分運転してもらえること。実はこれとても大きい。T氏は初のグランドサークルのため同行者の確保。これも大きい。
こちらの出した条件は少々ドライだが、ガイドはしない。訪れたい場所などの下調べや予約など自分のことは自分でお願いします。だった。
人の世話をしながらではこちらの目的が達成できないことが第一の理由ではあるが、第二の理由として「自分の旅」をしてもらいたいから。あらためて考えると、これは初めの理由に負けていない。
とは言っても、あの時間のグランドキャニオンの特別さを知っている者としては、あれだけは絶対見てもらいたい、必ずマジックアワーに間に合わせなくては。という にわかなガイド心が疼くのも確かだ。
The View エリアの目の前にはバレードライブというループ状の未舗装道路が続いている。
ナバホトライバルパーク料金を払っていれば誰でも走ることができるが、4輪駆動車やSUVの方が安心だ。
ミニバンということもあり、今回は比較的ハードルの低いジョンフォードポイントまで行ってみる。
ところで、レンタカーを借りる際に自動車保険に加入すると思うが、公道以外での事故は補償対象外の場合がある。ここは私有道路扱いになるはずだ。契約時に内容をよく確認した方がいい。
バレードライブ お薦めするが安全運転で
バレードライブのルートはビュートのすぐ横を走る
ジョンフォードポイントにて 眼下にバレードライブ T氏撮影
以前、このバレードライブで、ワイルドホース(マスタング)に道を塞がれたことがあった。
塞がれたとは言っても別に困ったわけではなく、なんだか互いに挨拶したような感じというか。
その時もジョンフォードポイントまで行ったんだけど、いちばん初めに眼に入ったのが若者の顔写真がエッチングされた石碑だった。
戦死したナバホ族の若者の慰霊碑なんだろうと思い手を合わせていたら、後のみやげもの小屋からナバホのおじさんが飛び出してきた。
昼間からかなり出来あがっている様子(ナバホ国では犯罪だが)で相当に酒臭い。いきなり手を握られた時には、強引な たかりかと思って身構えた。
でもよく聞いてみると、ありがとうと言っている。目頭を熱くして何か伝えようとしている。
酔っているとは言えナバホの人がこのように感情を表に出している姿を見たことが無かったので驚いた。
訊けば写真の若者はおじさんの弟だという。たくさんの才能を持っていたと。戦争じゃなくて此処で雷に打たれて死んでしまったと。
キミは日本人だろ、以前にも同じ祈り方をしてくれた日本人がいたからすぐに分かったと。
さっきの馬が間違いなくマスタングだと言えるのは、このおじさんがそう教えてくれたからだった。
とてもラッキーなことだと。キミはこの土地に歓迎されていると教えてくれた。
2時間前にカイエンタ(Kayenta)で買ったマールボロをおじさんと2本ずつ、献煙の分も合わせ6本喫み、残りをおじさんに進呈して別れた。
今回、ひそかに再会を期待していたんだけど会えなくて残念だ。
その時、出迎えてくれたワイルドホース、Mustang
US163 をモニュメントバレーの門前町カイエンタまで南下。
ここはナバホの国ではあるが、5日ぶりのアリゾナでもある。日本人なのに、この ”帰ってきた感” は何なんだろう。
US160の丁字に出たら西へ。途中、アメリカのナバホ国定公園があって、一度訪れてはみたいんだけど、今回も やはり時間がとれない。
次の目印はGASステーション。以前は無かったシェルが、ちょうど進路変更するAZ98(アリゾナ州道98号線)との交差点に出来ているのをグーグルマップで知っていた。
AZ98 をしばらく行くと、北に霊峰ナバホ マウンテン(後)が見えてくる
さらに行くと3本の煙突が現れる ナバホ発電所 この辺りのランドマークだ 後は人造湖レイクパウエル
アンテロープキャニオンは是非訪れたいと言っていたT氏に、アッパーなら事前予約を、ロウアーも状況が分からないので事前に下調べすることをお薦めしていた。
前回、アッパーを訪れたので、T氏がアンテロープキャニオンにいる間、未踏のホースシューベンドを独りで訪れるつもりだ。
発電所のとなりにあるロウアーアンテロープキャニオンのツアー受付所
ところがロウアーで困ったことになった。
大型バスが何台も停まっている。アッパーに比べ敷居が低いロウアーは、多くのツアープログラムに組み込まれているのだろう。
飛び込みのツアー参加は受付後80分以上(恐らくそれ以上)待ってからスタートするらしい。
それにややこしいことがある。サマータイム(DST/デイライト・セービング・タイム)だ。
同じアリゾナ州でもナバホの国では今度の日曜日まで1時間進んでいるが、アリゾナ州自体はDSTを採用していない。
現在ナバホ時刻は13:20。グランドキャニオンのアリゾナ日没時刻が17:20だから時差分1時間を合わせて5時間ある。
アリゾナ時間17:00には現着したいが、グーグルマップによると ここからの所要時間は2時間40分。
となると余剰時間は2時間。
事前にいくら調べていても、現場に来ないと分からないことも多い。今回はT氏に泣いてもらい、グランドキャニオンを優先した。
ページでスーパーマーケットに寄った後、1人で行くつもりだったホースシューベンドにT氏と向かった。
ページのSafeway に停まっていたスナップオンバス 日本のバスの倍くらいある
ページから US89S を10分も走れば ホースシューベンド駐車場に到着する。そこから片道1kmほどのトレイルを歩けば、想像を超えるスケールの ”曲がり” を観ることができる。
ホースシューベンドのトレイルヘッド ここから15分ほど歩く
トレイルの先にそれらしい地形が見えてきた
確かに凄い . . .
24mmの縦構図では両サイドが収まらない超広角被写体
横でもキツイか 16mm(35mm換算) かスマホのパノラマ撮影を推奨
この造形を生んだのは蛇行する眼下のコロラド川。昨日まで一緒だったサン・ホアン川や、あのグリーンリバーの水も含んでいると思うと何やら感慨深い。
これが個人的限界ライン あと50cm出れば垂直落下できる T氏撮影
写真では到底伝わらないが、実は水面まで300m以上ある。しかもそれがほぼ垂直に切り出されている。
たまに不幸な事故が起こるが、無機質な柵やネットなど一切なく、只々美しい。
ビッタースプリングス手前のUS89S からコロラド川が大地を削っている現場を見下ろす
アリゾナ州 公共安全局 DPS のハイウェイパトロール
帰ってから分かったことなんだけど、ページからキャメロン(グランドキャニオン方面)に向かう場合、US89 よりもCoppermine Rd を通った方が時間も距離も短縮できるようだ。途中で給油した Gap Express でUS89 に合流する。
アリゾナ時間16:05 キャメロンからAZ64 デザートビュードライブに入った。
ここからはグランドキャニオン エントランスまで30分ちょっと登りが続く。しかも比較的直線的に。標高差は約1000m。あからさまに気温が下がる。
16:40 Grand Canyon East Entrance 到着
東からの入園者を出迎えるデザートビューウォッチタワー
突き出た岩のひとつ
マーサーポイントから東にリムトレイルを歩くと、少し突き出した白い岩をいくつも見つけることができる。
トレイルから10~20m 出ただけで見晴らしが断然よくなり絶好のビューポイントだ。
この時間帯はひとつの岩にひとり、または1組ということが多く、大きな声で喋る人もほとんどいない。暗黙のルールというより、此処は自然と心が落ち着き、何かしらと繋がっている感じが湧いてくるからかもしれない。
陽は沈み急速にコントラストが失われていく。ここからは暖色が解けて無くなるまでメローな時間が味わえる。
カップルで味わうのもいい。親子でも素晴らしいんじゃないか。だけど、ひとりで味わうのもやっぱりいい。
この岩の先端までは少々難易度が高い けれど渓谷を駆け上がってくる風に当たるのは最高だ
岩で寝転んだりして1時間ほど過ごしていたら、辺りが急に暗くなってきた。T氏と合流して早いとこテント設営しないといけない。
今夜は世界最高のキャンプ場と言っても過言ないマーサーキャンプグランド。グランドキャニオン国立公園内にあるキャンプ場だ。テーブル付きのかまど付きで焚き火OKなのは言うまでもない。
Mather Campground Fir Loop Site #066
まず、サイトが広い。さらに、お隣さんとの間にどちらのものでもない緩衝帯があってセレブ感すら漂う。
車は2台横付け可能、1サイト最大6名まで。6人でも1泊料金18ドル。衛生的なトイレ、シャワー、コインランドリーあり、徒歩圏にスーパーあり。
もし日本にあれば、間違いなく予約の取れないキャンプ場になると思う。
予約はこちらから
標高2100m 、今日から11月となれば、やはり夜は冷える。焚き火が最高の状況だ。
野菜たっぷりのコンソメスープで体の芯から暖を取り、マッシュルームのソテーをアテに安バーボンの湯割りを何杯も作った。
ホワイトサンズ、極上の孤独を忘れないだろうな。プエブロの風を感じたチャコキャニオンの夜、これも良かった。ナバホの聖地に昇る冬の星々も最高だった。だけど今夜も負けていない、心からいい夜だ。
酔い覚ましにシャワーでも浴びようかと思いたったのは22時過ぎだったか。400m離れたシャワーとコインランドリーの棟まで夜風に当たりながら歩く。
営業時間が 5am - 11pm だということは下調べで知っている。灯りもついている。まだ開いてるな。
風呂は無くとも、引き続きいい夜だ。
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