9日目「月影旧道66号線」 ~アメリカ南西部 3475 マイル ロードトリップ の記し~
夜明けの1時間前、ほの暗いテントの中に今朝もアラームが響く。
昨日のモニュメントバレーは標高1700m。ここグランドキャニオンは2100m以上あるので さすがに冷えた。
軽装備でのキャンプ泊は今の時期ぐらいまでかな。
テントは後で片付けることにして、マーサーポイントの辺りに移動しよう。
全天雲に覆われているが、不思議なことに東の地平線だけは雲が破れ夜明け前の明るい空が抜けている。
よくある地平線に雲が被さり... の逆で、ほとんど経験が無く興味深い。そしてなかなかに美しい。
11月になるとビジターも少ないのか、リムトレイルから突き出した白い岩は空席が目立つ。
ひとりで独占するのは少々気が引けるが、三脚を立て、岩に寝転びながら空の色が変わっていくのを眺めよう。
ここでコーヒー淹れられたら最高だろうな。ストーブの使用が許されているなら今度やってみよう。
このポイントはヤキポイントのある断崖の影になるため、眼下の渓谷よりも陽が射しはじめるのが遅い。
いまごろ崖の向こうはアンバーに染まっているだろうな。
マーサーポイントから見たヤキポイントのある断崖 雲と地平線の隙間が輝きだす
数分後 この場所にも光が届きはじめる
20分後、魔法は解け雲も流れていった
キャンプサイトの片付けを含めて、まだ5時間ほどある。
以前、西の端ハーミッツレストまでバスで行き、復路はビレッジまでのリムトレイルを歩いた。ビレッジに着く少し前、赤紫の空気が降りてきて、空と眼下の大渓谷を染めていく。それが泣けるほど美しく 写真を撮らず赤紫に包まれていた。
カタチに残さなかったのは少し惜しいけれど、その時の選択はいま考えても たぶん正しい。
サウスカイバブトレイルでシーダーリッジまで下りたこともあった。
"グランドキャニオン 地質"などで検索しないと詳しいことは言えないが、いちばん上の白い岩の層で6億年前にできたと記憶している。で、いまコロラド川が削っている谷底は20億年前の地層なんだと。
高低差1450mのトレイルには見て触れることのできる14億年間が詰まっているということだ。シーダーリッジまでは350mほど下るので、ざっと3億年の時間旅行と考えれば足取りも少し軽くなる。
リムからの大眺望とは また違ったグランドキャニオンを感じることができるので、是非お勧めしておきたい。
ショートケーキみたいな岩が誘う
いずれこの大渓谷を下り、コロラド川に触りたいと思っている。ファントムランチとインディアンガーデンでそれぞれテント泊。50km弱の行程を3日かけてのんびりビレッジまで戻ってくる計画。
予行にもう一度サウスカイバブトレイルを下りてみよう。シーダーリッジまでなら往復3時間見れば大丈夫だ。
子鹿と会えた 野生動物には餌付けは勿論のこと、触ることも禁止されている
サウスカイバブトレイル トレイルヘッド下のつづら折り
サウスカイバブトレイルの難所、トレイルヘッド下のつづら折り。
行きは調子よく下っていけるので良いが、ピストンの場合、復路は最後の最後でこれが立ち塞がってくる。運動不足の方には少々堪えるかもしれない。
標高差350m下にあるシーダーリッジまでの時間配分は多めの休憩を含めて往路1時間、復路2時間みている。
参考になるか分からないが、復路(登り)を例えるなら、筑波山の御幸ヶ原コースに比べ難易度は低く、高尾山(1号路)より難易度は高い。
Ooh Aah Point
壁面に貼りつくように通されたトレイルルートが、この先で一気に開ける。誰もが「ウーアー!」と叫びたくなるというのが、このポイントの名の由来。
西にはマーサーポイントのある大きな突出しが見える
Cedar Ridge
トレイルヘッドからのんびり1時間かけて下りてくると開けた場所に出る。
トイレ完備の シーダーリッジだ。復路最後のつづら折りが少々キツイが、並の体力があれば大丈夫だと思う。
尚、谷底のファントムランチまで給水ポイントが無いので、どこで折り返すにしても必要十分な水を持っていく。
シーダーリッジの下にあるケーキ岩(勝手に呼んでいる)
ここで永遠の青年に逢う。
まだ行けそうなので、もう少し下りてスケルトン・ポイントまで行ってみるとのこと。もちろん谷底まで下りるつもりはないらしい。
こちらを振り返り、最後の挨拶をしてくれたところを1枚撮った。
さて、こちらはそろそろ戻ろうか。
Forever youth
キャンプサイトに戻り、残りものの遅い朝飯と撤収作業。
グランドキャニオンでの滞在時間は19時間足らず。ウーアーポイントで一緒になったフランス人は1週間滞在すると言っていた。だから昨日の夕方に来て、お昼には出発すると話したらかなり驚かれた。
スタンプラリーみたいな自分の旅を少し考え直すが、まだ押していないスタンプがやっぱり欲しいんだよな。
AZ64(アリゾナ州道64号線)は平原を引掻く一本道。55マイル先にあるウィリアムズまで1時間だ。
この平原を走っているとピンとこないが、ここはコロラドプラトーの真っただ中。海抜2,000m前後の大平原をドライブしている。
Williams, AZ
ウィリアムズはルート66が通る街。インターステートを使えば今晩中にはロサンゼルスに戻れるが、途中で1泊してピクサー映画「Cars」のモデル風景に入っていく。
ウィリアムズはグランドキャニオンの門前町なので宿泊施設が多い
ルート66を前面に押し出す街の雰囲気
さぁ、西へ。
となり街のアッシュフォークまでは I-40(インターステート40号線)で時間短縮。
この街を訪れる観光客はほとんどいないと思う。
ガスステーション、自動車修理工場、消防署、ギフトショップにモーテルが2軒。グランドキャニオン圏内にもかかわらずサインボードには宿泊料$29と書いてある。
はじめて訪れたが、マックイーンが迷い込む前のラジエータースプリングスにイメージが似ているな。
ルート66の中で実は貴重な街だと思う。
再びI-40Wに乗るが、7マイル先の Exit139 まで。その後は ルート66でセリグマンに向かう。
旧道(ルート66)と鉄道が並走してきた 街は近い
ルート66を復活させたデルガディロ兄弟の街、セリグマン
"ルート66" "セリグマン" で検索すれば、この街のことがたくさん出てくるはずだ。きれいな写真もきっとある。
しかし、ウチはちょっと違う。
何故... 自分の中で結論が出ないまま、それでも精いっぱいシャッターを切る
被写体のレベルが高すぎる 挑まれている 何からかもわからない
ここはソフトクリーム店の裏 剛速球過ぎて1mmも打てる気がしない
負けを認め失意のセルフポートレート
惚れ惚れするデザイン お土産にしたい
セリグマンにはルート66 ガイドブックの表紙になりそうなネオンサインボードがある。
前々回は訪れたのが日中だった。前回は到着が遅く、チェックイン直後に消されてしまって、せっかく泊ったのに撮れなかった。
今回はベストタイミング。日没のころネオン管に火が灯った。
街の夜景を撮るなら、闇と人工灯だけのハイコントラストよりも、日没後の薄暮時がいい。
ロサンゼルスや東京のような大都市でもそれは変わらない。
ROUTE66 MOTEL, Seligman, AZ
セリグマンはルート66のお父さん、エンジェルさんに逢える街。
ラスベガスからグランドキャニオンへ向かう1日ツアーの立ち寄り場所にもなっている。
ほとんどのツアーはこのあとI-40に乗りキングマンを経由してラスベガスへ帰っていく。でもこの先にもルート66は続いている。セリグマンからキングマンまでの忘れ去られたルート66。この道をドライブするため はるばる佐倉から来ているのだ。表には出ていないと思うが、テンション 上がっている。
グランドキャニオン・キャバーンズ、ピーチスプリングス、トラクストン、ハックベリー、アンタレス。
セリグマンやキングマンと違い、現在の本流との接点がまったくない忘られ街道。
この区間、初めて夜のドライブとなった。ハックベリーでは自分の画が撮れたと思う。画をクリックして、是非 大きな写真でご覧いただきたい。
Hackberry General Store, On Route66, AZ
Hackberry General Store, On Route66, AZ
キングマンを19:30ごろ通過した。
...我ながら思う。(新型コロナウィルスが猛威を振るう2020年4月の自宅待機にて)
ルート66の旅でキングマンは決して外してはいけない お約束の街だ。普通ならば、この街だけで ひと記事書くんじゃないだろうか。
それを1枚の写真もなく「19:30ごろ通過した」の1行で済ますとは...。
スポットでご覧いただいている方もいらっしゃるので、あらためてご案内を入れておいた方が良いと思った。
ここは撮影者の主観だけで成り立つ、フォトロードトリップサイトです。
エリアはざっくりですが、ロサンゼルス→最遠地テキサス州→ルート66をトレースしながらロサンゼルスまで戻る。
期間は約2週間、移動はすべてレンタカー、LAXで借りてLAXに返します。国立公園はキャンプサイト、街道では安モーテルに泊ります。
一般的なイメージのルート66をお望みであった場合、たぶんご期待に沿えません。その時は、ごめんなさい。
ただ、案外閲覧者も多く、中にはご購入いただける方もいらっしゃり、こんな写真が好きな方も少なくないのでは?と思ったりもしています。
ですので、もしよろしければ、もうちょっとだけ お付き合いください。
ちょっと前に I-40 を跨いで相変わらず旧道をドライブしている。この先にルート66唯一の山岳ルートがあり、ゴールドラッシュの街オートマンに続く。
今夜は月がいい。風景の一部と言うことではなく、光源という意味なんだけど。
月齢13~14の今夜は、360°地平線までフラットに照らしてくれる強力な照明だ。必要なのは満月前後の月と三脚だけ。
キングマンから10分ぐらい走ったころ、雲がちぎれてきて 砂漠をまだらに照らし始めた。
路肩に車を停め、雲の動きを眺める。40秒ぐらいなら良い条件をキープできるタイミングが何度かあった。
それじゃ三脚をセットしようか。
雲待ちの月光写真を撮っていたら、遠くの家の番犬が吠え始めた。
違う構図、設定で、あと2,3枚撮りたいんだけど全然鳴き止んでくれそうにない。今日はここまでにしよう。
この先のクールスプリングスにも月明かりで撮りたいものがある。
Cool Springs, on Route66, AZ
さて、昨日までの3日間はアメリカの大自然で焚き火をしてテントで寝た。金は掛かっていないが、考えようによってはとても贅沢な旅だと思う。
しかしそろそろ テレビを観ながらベッドで寝てもいいかな。いや、正直そうしたい。
そうなると思い、今夜はラフリンのカジノホテルを予約してある。
豪勢だなと思われるかもしれないが、実は格安のカジノホテルも多い。カジノに落としてもらうのがいちばん重要だからだ。今夜の宿はホテルズドットコム経由で総額25ドルしなかった。
しかし、カジノホテルというのは不便なこともある。
駐車場からフロントまでがとても遠いのだ。必ずカジノフロアを歩かされる。その気になって貰おうという訳だ。ついでに言えばフロントから部屋までも遠いことが多い。
カジノ目的の客は不自由を感じないだろうが、こちらは車に置いておけない機材もある。数百メートルもゴロゴロ移動しなければならないのは辛いな。やっぱり自分の旅にはモーテルがいい。
何度目かのコロラド川を越えると、この旅初のネバダ州に入った。ラフリンはまるで小さなラスベガスだ。
街灯りに安心したのか腹が減ってきた。今朝グランドキャニオンで昨夜の残りものを食べてからはスノーキャップのアイスクリーム以外なにも食べていない。
同行者T氏を誘いホテルの目の前にある In-N-Out で DOUBLE–DOUBLEのコンボにありついた。
不覚にもアメリカに来てから いちばん美味かったんじゃないかと本気で思ってしまう。
駐車場から部屋に入るまで、やはり長かった。
コロラド川沿いのホテルではあるが、当然ながら20ドルの部屋はリバービューではない。
けれど外輪船を模したこのホテルには コロラド川を見下ろせる甲板があって、夜風に当たっていると、まるで月に照らされたコロラド川をクルーズしているような錯覚も味わえる。
各人のイマジネーションに頼るところは小さくないが。
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